そのおいしさ、活きづくり級!! 福岡の急速冷凍イカの凄みを徹底解剖!
県内外の食通を唸らせる筑前玄海エリアのイカ。わざわざ全国各地から美食家たちが食べに訪れるほど注目を集めていますが、筑前海(玄界灘・響灘)のイカのおいしい食べ方の一つに“冷凍イカ”があります。
「イカは冷凍したら甘味が増す」「解凍したらゲソが吸い付くほど新鮮」など冷凍イカは鮮度と甘味に定評があり、高級料亭や寿司店からも引く手あまた。そんな活きづくりに劣らないおいしさを実現するのが、急速冷凍システム「IQF」だとか!
「IQF?」と聞き慣れない人もいるかもしれませんが、実は筑前海のイカをはじめ、福岡県のブランドイカ「一本槍(いっぽんやり)」の急速冷凍も多くがこのIQFで加工されています。漁業関係者も太鼓判を押す、急速冷凍システム「IQF」の凄みを徹底解剖しましょう。
ずばり、イカは冷凍した方が甘味が増すの?
今回取材の取材では筑前玄海エリアから少し足を延ばして、筑前海は玄界灘に面した福岡市西区にある「西浦漁港 福岡県漁業協同組合連合会 加工事業所」を訪ねました。急速冷凍システム「IQF」を使ってイカの冷凍加工を行う加工所です。所長・江上英典さんと柴田悠弥さんにお話を伺います。
まずは、消費者目線で1番気になる「イカは冷凍したら甘味が増すの!?」という疑問。その真相を単刀直入に尋ねてみました!
江上さん
活きイカは透明感があって“目で食べる”要素も大きいですよね。身が締まっていてゴリゴリとした食感。それも醍醐味ですが、イカは冷凍することで食感も味わいも良い意味で変化します。身が柔らかくなり甘味が増すので、人それぞれ好みもあると思いますが私は冷凍の方が好きですね。
柴田さん
冷凍することでイカの組織が壊れて、旨味成分が上がるそうです。飲食店で活きイカに飾り包丁を入れているのも、見た目や食感だけでなく、組織を刻んで甘味を出すためと言われていますよね。僕も実感していますが、冷凍イカは甘くておいしいです。
取材班
なるほど、漁場に最も近い場所でおいしさを追求するお二人がそう語ると説得力がありますね…!
急速冷凍システム「IQF」の画期的なポイント
それでは次に、急速冷凍システム「IQF」について深掘りしていきましょう。
「IQF」は Individual Quick Frozen の略称で、「個別急速冷凍」という意味を持ちます。食品を急速冷凍する技術もさることながら、“個別に”冷凍されることが最大の特長だと江上さんは語ります。
江上さん
市場では魚箱で活魚が取り引きされますが、卸先で魚箱のすべてを消費するのに時間がかかってしまうと、当然イカの鮮度も落ちてしまいます。生ものですから在庫として残ってしまったら味が落ちて廃棄されることもあるでしょう。でもIQFで急速冷凍したイカなら、鮮度が高いうちに急速冷凍して保存でき、いつでも好きな時に高鮮度の状態で料理に使えます。
しかもIQFはその名の通り“個別冷凍”。BQF(ブロック凍結)とは異なり、1杯ずつバラバラに凍結するので必要な分だけを使えて便利。フードロスの減少にも貢献できます。
取材班
水揚げ後、鮮度が高い状態で小分けにして急速冷凍できるのは大きなメリット。しかも冷凍させることでイカの甘味が増すなら、いいこと尽くし。一般家庭でも小分けされていると使い勝手がよくて助かりますね。
IQF加工で「一本槍」冷凍イカができるまで
ここで、IQFで冷凍加工される「一本槍」の製造工程を覗いてみましょう!
① 水揚げ
海中のイカは半透明ですが、水揚げの際は興奮して体色が真っ赤に! デリケートなイカは精神状態や環境によって体色を変化させるそうで、時間が経つとまた半透明になり、締めることで色が白くなります。なので半透明や赤いイカは新鮮である証。
② 計量・仕分け
「一本槍」のケンサキイカは胴長15cm以上であることが条件なので、水揚げ後は仕分けをし、冷凍加工するイカの計量をします。
③ 加工所に搬入
速やかに漁港から加工所へ。漁港と加工所が遠いとイカの鮮度が落ちてしまいますが、「西浦漁港 福岡県漁業協同組合連合会 加工事業所」は漁港の目の前。鮮度を守るのにパーフェクトな立地です!
④ 波板にセッティング
手足の動きが落ち着いてきたタイミングで、「波板」にイカを1杯ずつ並べます。
柴田さん
ゲソをきれいに巻いて波板に正座させるように並べます。活きがいいイカは動こうとするので大変ですが、波板からはみ出ると凍結後の形状が悪く足がポキッと折れてしまうので、波板にきちんとおさまるようにタイミングを図ることも大切です。
⑤ トンネルフリーザー(冷凍庫)へ
マイナス32℃と超低温の冷凍庫へ。この時も変色反応で赤くなったイカがたくさん見られ、鮮度の高さを伺わせます。ここから30~50分程で凍結完了。
⑥ 大きさごとに選別
冷凍の乾燥や酸化を防ぐためのグレーズ処理を行い、大きさごとに選別をしたら、福岡が誇る釣ケンサキイカ「一本槍」の鮮冷凍結品が完成!
わかりやすく動画でもご紹介します!
おいしい冷凍イカは、水揚げから冷凍までの時間が命!
急速冷凍の技術の力も大きいけれど、もっと重要なのはイカをどれだけ新鮮なうちに冷凍加工するか。おいしいイカの決め手はここにかかっています。
江上さん
イカの鮮度が落ちてしまったら、どんなに高性能な機械で急速凍結したとしても意味がありません。おいしいイカをおいしい状態で提供するためには、イカそのものの鮮度が高くなければ叶いません。幸いうちの加工所は港の目の前に位置し、ものの5分で運べます。漁師さんとの連携でイカが生きた状態で加工できるので、それがおいしさの決め手になっています。
取材班
写真の通り、加工所は漁港の目の前! 水揚げ後から加工までの所要時間が最短で行えることが、イカの鮮度やおいしさに直結するのです。
柴田さん
水揚げ時に興奮して真っ赤になったイカは、時間を少し置くと手足の動きが止まってきますが、まだ完全には死んではないんですよ。波板にセットする時も半透明に戻ったり、紫の斑点が出たりして、死んで真っ白にはなっていません。そしてトンネルフリーザーに入れる際にイカが再び赤くなるのも、鮮度が高い証です。
取材班
高鮮度の状態でIQF加工されたイカは、解凍するとゲソが手に吸い付くことがあるそうですよ!(※イカの状態や解凍時の温度など条件が揃った時の現象) 活きづくりにおよぶ鮮度を実感できる瞬間ですね。
まるごと1杯イカを味わえる「一本槍」の魅力
IQFで冷凍加工した「一本槍」は捌くのが簡単なので、家庭でも手軽においしく味わえます。内臓も凍った状態だとするりと抜けて、墨袋も破ることなく簡単に処理できます。
柴田さん
皮の剥ぎやすさも新鮮である証です。生きた状態で冷凍しているから、1回で皮を剥げますよ。耳に残った皮を、そのまま焼いて食べるのもおすすめです。
取材班
イカ1杯丸ごと味わえる「一本槍」は、切り身では味わうことができない皮、肝臓、口、軟骨といった希少部位も堪能できます。刺身でおいしく味わえますし、イカそうめんにしてポン酢や薬味と一緒に楽しむのもよし。寿司ネタとしても重宝されていて、全国の料亭や寿司店からも人気だそうです!
イカのおいしさに加え、地元の漁師さんも笑顔にするハッピーな仕組み
「西浦漁港 福岡県漁業協同組合連合会 加工事業所」では約10年前からIQFの冷凍加工を行っています。導入の発端は、漁師さんのためだと江上さんは語ります。
江上さん
イカや魚がたくさん獲れたとしてもすべてを市場外流通できるとは限りませんし、ハイシーズンは市場の値付けが安くなってしまいます。そこで、海産物の一部をIQFで個別冷凍し、在庫保管しようと導入しました。出荷調整をすることでハイシーズンの単価下落を最小限に抑えられますし、逆に漁獲量が少ない時期は市場の方が高く売れる場合もあるので『IQFに回さず市場に出してみては』と漁師さんに話すこともあります。こうして漁師と市場の安定的な取り引きを調整することが私たちの役目です。
柴田さん
漁師さんたちは水揚げした魚を市場に出荷するために選別したり、魚箱に移したり、いろいろな手間と労力をかけて行っています。特に、夏場の暑い日は年配の方にとって過酷な作業。我々のIQF加工であれば、西浦漁港で水揚げされたイカを私たちが加工所へ運び、測量や値付けも引き受けているので、漁師さんは箱も氷もいらず、出荷作業の手間がかからないので助かると言ってもらえています。ちょっとでも漁師さんのためになれば嬉しいですね!
漁師さんの負担も軽減し、安定供給の維持に働きかけ、卸先の飲食店も消費者もみんながハッピーになる西浦漁港のIQFの仕組み。漁港と加工所の近さ、そして連携力があるからこそ、「一本槍」をはじめ筑前海のイカが高鮮度の状態で冷凍加工され、いつでもおいしい状態で味わえるのですね。
イカの魅力と地元の漁師さんを力強く支える、IQFバンザイ!活きづくりに劣らない筑前海の冷凍イカのおいしさの理由も紐解けました。
知れば知るほど目から鱗で、興味と愛が深まるイカの世界。知らないことがまだまだたくさんあるなぁ…ということで、筑前海のイカについてまだまだ掘り下げていきたいと思います! 続編をお楽しみに♪