福岡のコーヒーカルチャー、今とこれから
食のまちとして語られることが多い福岡。
さまざまな名物がありますが、近年は「福岡のコーヒーカルチャーが熱い」と注目されています。確かにまちを歩けば、カフェやコーヒースタンド、コーヒー豆店などをあちこちで見つけることができ、その勢いはますます加速しているようです。
福岡はどのようにして、全国から視線を注がれる“コーヒーのまち”になったのでしょうか。現在の福岡のコーヒーシーンを牽引するコーヒーショップのオーナー、お二人に話を伺いました。
REC COFFEE編
REC COFFEE(福岡市薬院)岩瀬由和さん
愛知県出身。大学卒業後、福岡に移住。コーヒーショップ勤務を経て、共同代表者である北添修さんと2008年に移動販売店舗「REC COFFEE」を創業する。2010年に初の路面店となる薬院駅前店をオープンしたのを皮切りに、店舗運営を拡大。現在は福岡6店舗、東京1店舗、台湾1店舗を展開している。「ジャパンバリスタチャンピオンシップ」では、2014年、2015年と連続優勝、世界大会「ワールドバリスタチャンピオンシップ2016(アイルランド ダブリン)」では準優勝を飾った。
福岡で出会ったスペシャルティコーヒーに魅了
クロスロードふくおか 編集担当
福岡にコーヒー店を開くことになったきっかけを教えてください。
岩瀬さん
私は愛知県出身で、もともと福岡はゆかりのない土地です。大学在学中に、共同経営者の北添と日本各地を回っていたのですが、そのなかで二人が面白そうだと感じたのが福岡でした。
クロスロードふくおか 編集担当
福岡県民としてはとてもうれしいです。どういう点に惹かれましたか?
岩瀬さん
地元の名古屋に比べると規模は小さいのですが、まちのサイズがちょうどよかったり、路面店が多く、個性的なファッションを楽しむ人が多かったり、若者が発信力をもっていたり。そういった点に惹かれ、大学卒業後に移住してきました。その後、『マヌコーヒー』に勤務している時にスペシャルティコーヒーに魅了され、コーヒーの道に進むことを決めました。
クロスロードふくおか 編集担当
岩瀬さんが福岡に来られた頃、福岡のコーヒー文化はどのようなものでしたか?
岩瀬さん
現在のコーヒーカルチャーの流れとなるスペシャルティコーヒーの第一世代として、その代表格である『ハニー珈琲』さんや、スペシャルティコーヒーのエスプレッソを提供していた『マヌコーヒー』さんが注目されていました。そういう方々から影響を受けて店を始めたのが私たちの世代です。
同じ志をもつ人々が共に高め合い、新しい波が起きた
クロスロードふくおか 編集担当
新しい世代が活躍するきっかけになったことを教えてください。
岩瀬さん
大きなきっかけは2007年に『COF-FUK(コファック)』という、若手のバリスタやロースターが集まり、勉強や情報交換を行うグループができたことです。『豆香洞コーヒー』の後藤さんや私を含め10名ほどの参加者がいて、多くのメンバーは開業を目指している状況でした。
クロスロードふくおか 編集担当
集まった方々には、何か共通点があったのでしょうか?
岩瀬さん
はい。私たちにはスペシャルティコーヒーを求めるという共通点がありました。スペシャルティコーヒーは流通が限られていて、そこからいい豆を掴むためには自分たちがクオリティを知らなければいけない。そのためには勉強が必要だと感じ、行動を取ることができるとても意識の高いメンバーが集まっていたと思います。
クロスロードふくおか 編集担当
グループでお互いを高め合っていたんですね。具体的には、どのような活動をしていましたか?
岩瀬さん
1ヶ月に1回ほど定期的に集まり、自家焙煎した豆や海外の有名なコーヒー店の豆などのカッピングをし、コーヒーのおいしさをしっかり理解できるようにそれぞれの力を磨きました。
クロスロードふくおか 編集担当
そういった活動があって、豆香洞コーヒーの後藤さんが『ワールド コーヒー ロースティング チャンピオンシップ2013』で優勝。岩瀬さんが2014、2015年の「ジャパンバリスタチャンピオンシップ」で優勝、さらに2016年には『ワールドバリスタチャンピオンシップ』で優勝するなど、競技会の結果に繋がるんですね。
岩瀬さん
そうですね。ただ、私たちは受賞を目標としていたわけではなく、自分たちがより品質のいいものやコーヒーについての知識を得る場所だと捉えて競技会に参加していました。『COF-FUK』で行っていたことが場所を変えたという感じでしょうか。競技会でフィードバックをもらい、徐々にスキルを上げていったことで、受賞につながったのだと思います。
クロスロードふくおか 編集担当
今では“コーヒーのまち”となりつつある福岡ですが、なぜ福岡でこのようにコーヒーが盛り上がっていると思われますか?
岩瀬さん
福岡は、コーヒー文化が栄えるというよりは、品質が高くストーリーのあるスペシャルティコーヒーが根付くのにうってつけの場所だったのではないかと思います。
クロスロードふくおか 編集担当
それはなぜでしょうか?
岩瀬さん
福岡は安くておいしいものが手に入るまちです。なので、もともとお客さんの舌が肥えています。しかも若い世代でも、おいしさを理解できる人たちが多いと思います。いいものはシェアしたいという気持ちから情報を発信し、その情報が加速度的に広がり、現在に繋がっているのではないでしょうか。そしてこの状況に夢を持ったり、ビジネスチャンスとしてとらえる人が出てきたりして、インディペンデント系のコーヒーショップが増えているのだと思います。
福岡から国内外へ届けるコーヒーカルチャー
クロスロードふくおか 編集担当
これからの福岡のコーヒーカルチャーについて考えていることを教えてください。
岩瀬さん
私は愛知出身で、地元の人間ではないからこそ、福岡がいかに独特の文化をもった魅力的なまちかということをわかっています。福岡である程度成功すれば、どこでもやっていけると思うので、全国を見据えて発信するという意識をもっていくといいのではないかと思います。
クロスロードふくおか 編集担当
福岡だけにとどまらず、ということですね。
岩瀬さん
そうですね。日本国内だけでなく、中国や韓国、台湾、東南アジアなどのアジア諸国でもコーヒー文化がとても盛り上がっています。福岡はアジアに近いという立地を生かし、コーヒーを通じて交流する玄関口のような役割になるといいですね。
こだわり派も手軽派も、自宅でおいしいコーヒーを
クロスロードふくおか 編集担当
STAY HOME時代の最近は、自宅でのコーヒー需要も高まっていると聞きますが、どのように楽しむのがおすすめでしょうか。
岩瀬さん
家で楽しむコーヒーはとてもこだわる、こだわらないの二極化をしていると思います。でも、どちらもおいしいコーヒーを飲みたいという気持ちは変わらないですよね。時間がある時は、豆を買ってゆっくりとドリップする時間を楽しんでください。福岡は身近においしいコーヒー屋さんがたくさんあるので、自分に合ったコーヒー豆を探すのもいいと思います。
以前は私もあまり肯定していなかったのですが、最近はコーヒーバッグのクオリティがとても高くなっています。時間がないなかでもおいしいコーヒーを入れたい、出先で気軽にコーヒーを飲みたいという時には、コーヒーバッグも一つの選択肢です。REC COFFEEもいろいろなラインナップを出していて、どれも自信があるので試していただきたいです。
福岡のまちがもつ魅力や気質、そしてコーヒーに携わる人々の熱意が相互作用して生まれた福岡の新しいコーヒーカルチャー。また、県外から移住された岩瀬さんならではの福岡の分析など、たくさんの気づきがあるお話を伺うことができました。
豆香洞コーヒー編
豆香洞コーヒー(大野城市白木原) 後藤直紀さん
神奈川県生まれ、5歳から福岡市で育つ。イベント会社勤務中にコーヒーの焙煎を独学で学び、その後、東京「バッハコーヒー」で田口護氏に3年間師事。2008年 大野城市白木原に「豆香洞コーヒー」をオープン。2013年「ワールド コーヒー ロースティング チャンピオンシップ2013(フランス ニース開催)」の日本代表となり、優勝を飾る。店舗経営のほか、各種協議会の審査や製品開発なども手がけている。白木原のほか、博多リバレインモールにも店舗がある。
クロスロードふくおか 編集担当
福岡でコーヒーショップをはじめようと思った理由を教えてください。
後藤さん
私は幼少のころから福岡市で育ち、社会人になっても福岡で働いていたので、福岡に店舗を構えるのは自然な流れでした。この仕事を始める前、イベント会社に勤務している時にコーヒーをよく飲んでいたのですが、行きつけのコーヒー豆店の方に「そんなに飲むなら焙煎した方が安いよ」と勧められ、自家焙煎を始めたのがコーヒーに携わるきっかけです。
クロスロードふくおか 編集担当
それから焙煎をするようになったのですね。
後藤さん
そうですね。それとは別に、有志で週に1回ほど集まっていた「コーヒー部」に参加するようになって、コーヒーの魅力をより感じるようになったのも理由の一つです。コーヒー店に集まる人は、趣味人が多く、音楽、自転車など話題が豊富で楽しかったんです。そういう人たちと携わる仕事をしていきたいと思い、コーヒー店を始めることにしました
老舗が支えたコーヒー文化を受け継ぐ人々
クロスロードふくおか 編集担当
福岡には、元々コーヒーを嗜む文化が根付いていたのでしょうか。
後藤さん
もちろん、福岡には『珈琲舎のだ』さんや『珈琲美美』さんなど、長年愛されるコーヒーの老舗があり、その方々が守ってきた文化があります。多くの福岡のコーヒー愛好家の方たちはそこでコーヒーを楽しんでいました。ただ、その次の世代はなかなか現れていなかったのではないでしょうか。
クロスロードふくおか 編集担当
その後、次の世代となったのが、後藤さんたちですね。
後藤さん
そうですね、『REC COFFEE』の岩瀬さんの話にもあった、『COF-FUK』の存在が大きかったと思います。
クロスロードふくおか 編集担当
当時から『COF-FUK』はよく知られていたのですか?
後藤さん
当時は、仕入れ先の兼ね合いなどもあり、『COF-FUK』はひっそりと活動をしていました。なので、こういった会があることを福岡の人はもちろん、他の都市の人も知りません。ところが、地道に続けているうちに、メンバーが競技会で結果を残すようになりました。
クロスロードふくおか 編集担当
「なぜか福岡の受賞が多いぞ」とコーヒー業界の人々が気づいたんですね。
後藤さん
そうです。それに加え、それまでは大手メーカーの方の受賞が多かったのですが、福岡は個人店ばかり。そうすると『福岡で何が起きている?』と注目されるようになったんです。その辺りから今の盛り上がりが始まったのだと感じています。
福岡独自のコーヒーカルチャーを発信
クロスロードふくおか 編集担当
他都市ではなく、福岡だからこのような活動が実現できた理由はありますか?
後藤さん
私たちが集まっていた『COF-FUK』のメンバーは、情報をシェアしたり、新しいことを得たら共有したいという気持ちが強く、その積み重ねがあったからこそスピーディな技術の底上げや、情報の蓄積などができたのだと思います。これは、一人勝ちを良しとせず、シェアするという福岡の県民性が現れではないでしょうか。意識していたわけではないのですが、自然とそうなっていたと感じます。
クロスロードふくおか 編集担当
なるほど、福岡県人の心意気が育てたということですね。最近は、国内だけでなく、海外からも注目されているようですが。
後藤さん
コロナ禍の前はコーヒーを目的に、日本だけでなく、海外からもお客さんが来はじめていました。以前のような日常に戻れば、きっとまた多くの方が福岡でコーヒーを楽しみに来てくれると思います。
クロスロードふくおか 編集担当
自由に国内外を移動できる日が待ち遠しいですね。
後藤さん
そうですね。その時のために、私たちは福岡独自のコーヒー文化を楽しんでもらえる準備をしていくべきだと思っています。福岡のコーヒー文化の特徴に、お酒を飲んだ後にコーヒーを飲むということが挙げられます。深夜まで営業しているコーヒー店が多いのは、他の都市ではなかなか見られないユニークなことなので発信していき『福岡でおいしいもの食べて、コーヒーでシメたいね』と言ってもらえるような場所になると面白いと思います。
自宅で飲むコーヒーを毎日の習慣に
クロスロードふくおか 編集担当
STAY HOME時代の最近は、自宅でのコーヒー需要も高まっていると聞きますが、どのように楽しむのがおすすめでしょうか?
後藤さん
私はもともと家庭用のコーヒーを販売することを目的に店を立ち上げたので、多くの方が自分の時間にコーヒーを楽しんでくださるのはうれしいことです。そして、豆に加えてコーヒー器具の需要も増えました。これを機に家でおいしいコーヒーを飲みたいという人が増えたからでしょう。この習慣を続けて欲しいので、コーヒーを淹れることを特別なことと思わずに日々の習慣としてもらえればと思っています。
クロスロードふくおか 編集担当
自宅でコーヒーを淹れる時にあると便利なものは何でしょうか?
後藤さん
きっと一番面倒だと感じるのは豆を挽くことだと思うので、コーヒーミルは電動のものを購入することをおすすめします。挽きたての豆を使うことで、美味しさは格別です。コーヒー豆をひいた時に広がる香りも一緒に楽しんでみてください。
岩瀬さんや後藤さんをはじめとする、福岡で活躍するコーヒーショップのオーナーが牽引し、発展してきた福岡のコーヒーカルチャー。この熱はまだまだ続きそうですね。そしてきっと福岡を訪れる理由の一つとして定着していくことでしょう。
みなさんもクオリティの高いコーヒーを身近で味わえる幸せを感じながら、コーヒーショップめぐりを楽しんでみてはいかがでしょうか。
この記事は2021年12月10日に公開されたものです。
最終更新日:2023年1月31日