九州の建築ワンダーランド、福岡県
福岡の活気ある芸術と建築の世界は、20 世紀初頭以来、福岡がアジアや西洋との貿易の主要玄関口として戦略的に築かれた湾岸都市であることに由来しています。東京や大阪から遠く離れた九州最大の都市であり、都市計画に対して明確なビジョンでアプローチしてきた福岡は、デザインと建築の愛好家が訪れるべき最高の目的地として、独自の強みを放っています。
1980年代後半~90年代前半の建築
1980 年代後半、東京の不動産価格が人々の想像をはるかに超えて高騰し、日本が世界有数の経済大国として台頭したことが世界中で話題になりました。しかし、日本の首都から遠く離れた福岡でも、同様の現象が起きていたのです。
西洋建築への強い関心と、都市開発への無限の野心が相まって、地方自治体は数多くのプロジェクトに建築界の大物 (国内・海外いずれでも高名な建築家)を雇い、数々の興味深く、貴重な作品を残しました。
世界の建築家通り/黒川紀章ほか – 1990年
福岡市早良区の百道浜エリア一帯には、建築的に注目すべき建物が密集しており、じっくりと訪れる価値があります。このエリアは、かつての「百道海岸」を沿岸開発計画によって埋め立て、拡張して誕生しました。1989年に開催された「アジア太平洋博覧会」(通称「よかトピア」)に合わせて、この新しいウォーターフロントエリアは、商業的、技術的、そして居住的に革新的な建築デザインのショーケースとなりました。
地行百道線沿いには、福岡で最も目立つスカイラインの名所のひとつ「福岡タワー」や、同時代の興味深い建物がいくつもあります。「世界の建築家通り」として知られ、今ではポストモダン建築の野外展示会と見なすこともできます。
ここでは7人の一流建築家が、互いに全く異なった創造的ビジョンを提示しています。個々のデザインが都市構造に与える影響に注目した、折衷的なスタイルの融合です。このように顕著な様式的表現は、金融街や文化施設、地域のランドマークなどでよく見かけますが、住宅に施された魅力的な芸術デザインは特に目を引くものです。
よかトピア通りとの交差点には、2つの有名な建物が並んで建っています。先見の明があり、メタボリズムを提唱した黒川紀章による「福岡インターナショナルスクール別館」と、アメリカのポストモダニズム建築家マイケル・グレイブスの「ネクサス百道Mビル」です。別館で最も目立つのはクリスタルタワーで、学校のアートセンターとデザインラボがその中に入っています。Mビルは明るい赤色の住宅ビルで、中央の角の形は、グレイブスが1993年に同じく福岡で手掛けたホテル「ハイアット・リージェンシー福岡」(現「ザ・ベーシックス福岡」)の素晴らしいデザインを反映しています。
その隣には、アメリカの有名な建築家で理論家のスタンリー・タイガーマンが設計した「ネクサス百道Sビル」があります。ファサードと内装は非常によく似たデザインで、内と外の境界が曖昧になっています。
「福岡インターナショナルスクール別館」の隣にある葉祥栄の「シーサイドももちサウスシーショアビル」は、立方体の枠組みをいくつも重ねたような構造をしています。この辺りには、出江寛の「シーサイドももちアルティコートA館」と美川淳而・鮎川透の「シーサイドももちアルティコートB館」という、名前は似ていますが対照的なデザインの住宅や、角地という立地を生かした珍しい形のエントランスを持つ木島安史の「ベガ」などもあります。
世界の建築家通り
福岡県福岡市早良区百道浜3丁目
ポスト・バブル建築
1990 年代半ば以降、経済と社会の状況は急激に変化し、過去の華やかな時代からのパラダイムシフトが求められていました。デザインは依然として未来を見据えていましたが、今や、制御不能な成長に対する懸念と、持続可能性への新たな関心が組み込まれていました。
福岡市は、時代を先取りした環境政策を早くも採用していました。それが世界の多くの首都で標準となったのは、1997 年に京都議定書が採択された後の数十年間のことでした。
アクロス福岡(海を越えるアジアの十字路)/エミリオ・アンバース – 1995年
アルゼンチンの建築家エミリオ・アンバースが設計した公民複合施設で、構造内に多くの緑地を取り入れ、福岡のグリーン都市主義の象徴となっています。山のような形で、天神中央公園から自然に続いているように見えます。美観効果以外にも、中央区天神のような高密度地域の都市熱を緩和する意図がありました。ステップガーデンには76種類・約37,000本の植物が植えられ、さまざまな野生生物の生息地となり、地元の生物多様性にもプラスの効果をもたらしました。
また、雨水収集システムはトイレや建物の冷却システムに使用されています。ステップガーデンの反対側には多層ガラス窓が設置され、自然光を取り入れながら屋内の人々のプライバシーを確保し、熱の蓄積を防いでいます。完成から約30年たった今でも、アクロス福岡は先駆的な緑化デザインの好例となっています。
アクロス福岡
福岡県福岡市中央区天神1-1-1
リバーウォーク北九州/ジョン・ジャーディ – 2003年
リバーウォーク北九州は、「北九州市ルネッサンス構想」事業の一環として建設された大型の文化商業施設で、この地域で最も目立つランドマークのひとつです。小倉城とその庭園、八坂神社が目の前にあり、紫川のすぐそばという立地と相まって、のんびりと散歩するのに理想的な場所であり、街の古今の文化の素晴らしさが凝縮されています。
建築構成は一見すると非常に折衷的で、非常に独特な色彩と様式が混在しています。各建物の様式は、北九市の5区それぞれの個性を象徴し、色は日本の伝統文化や風景を表現。アートと建築が一体となって、街の歴史的なルーツを無視することなく、未来を見据えた印象的な外観となっています。
リバーウォーク北九州
福岡県北九州市小倉北区室町 1-1-1
ぐりんぐりん(福岡アイランドシティ)/伊東豊雄 – 2005年
博多湾では1994年に人工島「福岡アイランドシティ」の建設が始まり、2027年までに完成予定です。本土に近いエリアには「アイランドシティ中央公園」があり、建築家の伊東豊雄が教育と生物多様性の両方の目的で設計した体験学習施設「ぐりんぐりん」があります。
内部はいくつかのブロックに分かれています。北ブロックは緑に囲まれた広いフリースペース、中央ブロックは蝶や亜熱帯植物でいっぱいの植物園、南ブロックはガーデニングワークショップが可能なエリアです。
全体的に丸みを帯びたデザインで、公園の自然環境にスムーズに溶け込み、有機的な空間に見えるよう設計されています。内部は未来的な温室のようで、湾曲したガラス屋根が自然光を取り入れ、寒い時期でも暖かさを保ちます。雨水を集め、全館冷却と植物への給水に利用しています。
屋上の遊歩道からは、公園と建物自体の素晴らしい景観が楽しめます。有機的なインスピレーションを建築に取り入れた伊藤の現代的なアプローチは、合理主義やブルータリズムとは対照的で、フランスやカタロニアのアール・ヌーヴォー建築に見られるアイデアのいくつかを取り戻し、自然と人間のつながりを表現しています。
ぐりんぐりん(福岡アイランドシティ)
福岡県福岡市東区香椎照葉4-1
原点回帰のアプローチによる革新
21世紀後半の10年間は、2008年の世界金融危機と気候変動に対する懸念の高まりに見舞われ、開発を理解するために新しい方法を模索することが重視され、異なるアプローチが求められました。日本では、鉄やガラス、コンクリートによる美学は、木材などの伝統的な素材に取って代わられました、それは、常に日本の伝統建築を支えてきたものでした。
スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店/隈研吾 – 2011年
日本人建築家の隈研吾は、現代のテクノロジーと伝統的な木材を生かして、スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店の革新的な店舗を設計しました。アートと建築が交差する細長い空間では、一見すると織り込まれたような木組み構造が、インテリアデザインの一部となっています。
入口から通路の端まで美しい連続性を持たせることで、視覚的にダイナミックな空間を作り出しています。直線的な十字のラインでも温かみのある心地良い空間になっているのは、木材の自然な色合いのおかげです。
スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店
福岡県太宰府市宰府3-2-43
みやこ伊良原学園/安藤忠雄 – 2016年
1872年に創立され、福岡県最古の木造校舎といわれる伊良原小学校は、ダム建設のために移転を余儀なくされました。それまで別々だった伊良原小学校と中学校を統合し、地域の新たなシンボルとなる校舎の設計を任されたのが、日本人建築家の安藤忠雄です。
安藤は、内壁と外壁に地元産の木材を使用した中庭型の校舎を設計しました。コンクリート打ち放しのデザインで知られる安藤ですが、このユニークな木造校舎は町の新たなランドマークとなり、国内外から賞賛されています。
みやこ伊良原学園
福岡県京都郡みやこ町犀川上伊良原178-2
世界に誇る福岡の建築モデル
いかがでしたか?ご紹介した建物は、福岡の豊かな建築遺産のほんの一部です。都市デザインに対する福岡県のビジョンは、環境への責任と矛盾しない成長や、デザインにおける革新のランドマークとなりうる持続可能な構造について、説得力のある例を示すものです。純粋に美的な動機に加え、こうした特徴により、福岡は世界で最も生活の質が高い街として毎年上位にランクインしています。
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